チャーの趣味は骨董収集だ。
家には縄文の壺や弥生土器もある。
さらに江戸後期の皿や明治初期の九谷焼が100均の食器と混ざって家では普通に使っている。
流石に高くつく趣味なので、結婚3年でママが説得して新規購入はだいぶ封印した。
今ではたまにちょっと安めのものしか買わなくなった。
そんなチャーのお気に入りの壺があった。
「室町時代の壺」
まず初めに断っておくが、本当か嘘かは分からない(笑)
なんでも鑑定団で1,000円かもしれない。
焦茶色で、水に濡らすと土の匂いがほわっと漂うちょっといびつな形の壺を
チャーは「本筋から仕入れた。これは絶対室町時代の壺」と信じていた。
その壺はちょっと自慢げに玄関先に飾られた。
たまに季節の草花が飾られ、風情を感じさせてくれていた。
今から4年前、その壺が砕け散った。
当時2年生のピーが玄関で靴を脱ごうと足をバタバタさせていたら、壺に触って、あっけなく破壊してしまった。
ママはその光景を見て呆然とした。
まさか、こんなに脆いとは。
この壺は本当に室町時代のものだったのかもしれない。
足が当たっただけで、大爆発したような砕け方。
砕けた欠片を見ると、
土でできていた。
そして独特の土の匂いが漂ってきた。
不思議だった。
土をどうやってこんなに薄く固めているのか。
膠でもノリでもない。繊細な固め方。それであのフォルムを保っていたとは。
何だか分からないけど室町時代の人はものすごいスキルを持っていたに違いない。
帰ってきたチャーはがっくり。しょんぼり。
ピーは「ごめんね」と謝っていた。
「ピーは悪くないよ」と言いながら肩を落としていた。
ビニールに入れられた壺の欠片達。
すっかり捨てるものかと思っていた。
「まさか。捨てるわけないじゃん。」
チャーは言った。
「この壺は応仁の乱を見てるかもしれないんだよ。関ヶ原の戦いや明治維新、太平洋戦争、みんなくぐり抜けてきたんだ。それがピーの足蹴り一発でまさか砕け散るとは。」
そして先日修復された壺が家に戻ってきた。
チャーの知り合いの修復師さんが直してくれたそう。
つぎはぎだらけだけどそれも味になっている。
考えてみればあれから四年。
アナログ人のモノへのこだわりってすごいな。
ママは捨てる事しか考えてなかった。
粉々になっても諦めない。
その心意気忘れないぞ!
でもさすがにもう玄関先には置かないらしい。